永谷兵部少輔という人がいた。一条戻橋のほとりに住んでいた。年は21歳。極め付きの美男子と評判だった。色好みとして知られ、才知は並の人を超え学文をたしなみ、三条坊門の万里小路(までのこうじ)の東に住む、北畠昌雪(きたばたけしょうせつ)法印とかいう儒学に詳しい人の元へ通い、学業に励み講義の場を訪れた。
神祇官のあたりに富裕な家があった。かつては山名の一族だったが武門を抜けて都へ移り、名を隠して密かに暮らし、一切の大名高家と関わりを持たずにいた。
越前国北の庄に商人がいた。毎年松前に渡って蝦夷と貿易を行い、たくさんの木綿や麻布と引き替えに昆布や干しアワビを手に入れ、それを売っていた。
ある年、船に乗って松前に渡っていると、急に風が変わり波が高くなり、帆柱は折れ舵は砕けて吹き流されながら、ようやく一つの島に漂着した。やっと少し人心地がついて船から上陸すると、5町ほど行ったところに人里があった。そこにいる人々は髪が短く、髭(ひげ)が長かった。喋る言葉は日本語であった。
ある家に入って国の名前を尋ねると、長髭扶桑州(ちょうしゅふそうしゅう)だという。国主を問えば、ここから1里ほど東にその城郭があると教えられた。そこへ赴き惣門を過ぎてみればそこが国主の本城らしく、門は築地が高く石垣は削り立てたようだった。
そういえば、こうしたのにつきものの底本について書いてなかった。
底本は『日本名著全集第1期出版 江戸文藝之部 怪談名作集』。
発行元は「日本名著全集刊行会」。どうも頒布会だったらしい。
正式には“怪談名作集”の後に(非売品)と書いてある。
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